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先日,本ブログにて紹介しました,アンコール遺跡の石切供給に関する研究ですが,その後も様々な雑誌・新聞において取りあげられました。


12月後半には,前回確認された採石場のさらに北東・東方を精査するための現地調査を行い,これまでに未確認の採石地を複数発見しました。

石切場はアンコール遺跡から車で約1時間ほどのベン・メアレア寺院の東側に分布していますが,道が拓けていないために,バイクと徒歩によって藪をかき分けながらの調査となります。

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十数層もの石材ブロックが切り出された痕跡が残る,垂直に切り立った岩盤や,運搬されずにそのまま取り残された石材等も複数認められました。

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採石場がさらに広域に及んでいることが認められました。調査地区は一部に岩盤が地上に露出しているところもありますが,ほとんどは厚い土砂に覆われているため,現在では地中に石切場の痕跡の多くが埋伏していることが予想されるところです。こうした遺構も含めた包括的な研究を行い,遺跡群と石切場との関係性をさらに追求していきたいと考えています。(一)


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米国の科学雑誌「Science」のWeb News20121012)および20121019日発行の「Science」において、衛星写真および現地踏査によって内田悦生・下田一太によるアンコール遺跡の石材運搬経路および石切り場に関する論文"Quarries and transportation routes of Angkor monument sandstone blocks"(Journal of Archaeological Science, in press)が紹介されました。従来の運搬ルートはトンレサップ湖を経由し、90kmの道程がありましたが、私たちが新たに見出した運搬ルートは35kmの道程で、運河および河川より構成されています。

この新しい石材運搬経路の発見は、20121020日発行の英国の科学雑誌「NewScientist」およびそのWebでもNews記事として取り上げられました。

 

さらに、20121024日発行のカンボジアの英字新聞"The Cambodia Daily"でも運河と石切り場に関する記事が掲載されました。今回の新たな石材運搬経路の発見はGoogle earthの衛星画像がきっかけとなっていることから、Google earthBlog(20121025日)でもこのニュースが取り上げられました。

 

その他に、下記のメディアでも報道されています。

Cambodge Post(カンボジア) 20121022日 論文の概要がフランス語で紹介されています。
The Phnom Penh Post(カンボジア)20121026
The Telegraph(英国) 20121027
LiveScience(米国) 20121031
La Recherche(フランス) 2012121日(12月号)
The American Scholar(米国) 2012年冬号


アジアの三大仏教遺跡といえば,ボロブドゥール・パガン・バイヨン,ということになるでしょうか。日頃の仕事場となるバイヨンを離れて,今年二回目となるボロブドゥール遺跡での調査を行いました。


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インドネシア,中部ジャワに位置する古代仏教寺院であるボロブドゥール遺跡は,197080年代にユネスコを中心とした国際的な枠組みの下,大規模な修復工事が行われました。その後,約30年を経て,修復工事の経過観測と今後の保存修復処置の是非を問う調査がユネスコによって2012年より開始されました。1400枚以上におよぶ仏教彫刻パネルの石材劣化が進行しつつあることは,定点観測の結果から明らかです。

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その原因として考えられる浮彫パネル背面からの漏水問題,漏水を促す基壇内部への遮水・排水構造,基壇内部に埋設されたRC造の補強躯体の変位と塩類風化の関連等についての調査を行いました。

 

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 ボロブドゥールでは遺跡保存センターに所属する多数の専門職員が,遺跡の管理保守・研究・保存処置に携わり,彼らが過去30年にわたり蓄積してきたデータは極めて貴重なものとなっています。しかしながら,職員の世代交代に伴い,ノウハウやデータの継承が十分ではない面や,修復時あるいは修復直後に意図した観測が確実には継続されていないという課題も認められます。また,修復時に設定した観測方法を順守することに傾倒し,新しい観測技術の導入が必ずしも十分ではなかったり,また,導入されているものについても,十分な分析が行われていない状態が一部にみられます。

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 こうした状況にあって,保存センターが自主的な姿勢を保ちつつも,適度に新たな技術を導入し,十分な指導とフォローアップをすることが求められるように思われます。アンコール遺跡における人材育成・技術移転においても同様ですが,たとえ,一定の修復技術が移転され,自主的な活動が開始されたとしても,最先端の修復保存技術や知見に接することが難しい環境においては,最低限の技術的支援が継続的に必要ではないかと考えられます。ボロブドゥールでの長期にわたる保守管理の経験は,アンコール遺跡における将来的な修復および管理体制の構築を考える上で,極めて重要な経験です。(一)

2008年7月にカンボジア第二の世界遺産として登録されたプレア・ヴィヘア遺跡ですが,その後,カンボジア-タイの国境問題により,数年間の封鎖を強いられてきました。

ようやく,昨年後半から情勢が安定し,まだ通常の観光客の訪問に対しては「渡航の是非を検討するように」,との注意が継続していますが,アンコール研究の上でも重要なこの遺跡での現地調査が可能な状況が整いつつあります。
(外務省海外安全ホームページ)http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo.asp?id=004
121207-01.JPG名城大学と早稲田大学による共同チームは今年8月より,カンボジア政府プレア・ヴィヘア遺跡群機構との協力体制のもと,この遺跡群の調査を開始しました。研究の目的は,現状遺構の測量を中心とした建築学的な調査にありますが,加えて,将来的な修復事業に備えた,遺跡の保存計画の基礎資料の作成も重要な課題としています。

12月5,6日にシェムリアップにて開催された「アンコール遺跡群の保全と開発のための調整会議」において,上記のプレア・ヴィヘア遺跡群研究事業の調印式が執り行われました。式典には,ソク・アンカンボジア副首相を始めとしたカンボジア政府,ユネスコ関係者等に御臨席頂きました。
カンボジア政府からは,本事業が今後の国際的な協力体制構築のために極めて重要な一歩を踏み出す契機となることを期待する,という表明が示され,高い期待が寄せられました。

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121207-08.JPG研究事業は今後4年間にわたり継続して行われる予定です。
今年8月に実施された第一回目の調査では,高精度GPSの計測に始まり,トータルステーション,三次元形状測量,写真測量等を利用した遺跡群の現状記録に開始されました。

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121207-03.JPG121207-04.JPG121207-05.JPG早稲田大学建築史研究室(中川武研究室),名城大学溝口明則教授,東京大学池内克史研究室,JASAを中心とした調査隊によって約3週間の第一回ミッションが行われました。
プレアヴィヘア機構の若手専門家との現地調査における協力体制のもと,研究調査の技術移転を含めた活動を進める計画です。

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本事業は文部科学省科学研究費助成「クメール帝国の空間構造と地方拠点都市遺跡に関する研究」(代表:溝口明則,名城大学)にもとづき,進められているものです。(一)