BLOG

去る4月21日。バイヨン・インフォメーション・センターは、木曜日の休日を利用して、1日だけプノンペンに出張しました。

その目的は・・・

プノンペン大学日本語学科の特別講義で遺跡の修復について紹介すること!

なんとプノンペン大学でアンコール地域での修復についてお話する機会を頂きました。日本語学科で学ぶ学生に、日本語で、日本のことを紹介する「日本学」の講義の中で、「日本の修復事業」を紹介してほしいとの依頼を受け、1日出張バイヨン・インフォメーション・センターをすることになったのです。

 

2時間用意されている特別講義の中で、最初の1時間はバイヨンセンターからの講義、次の1時間は学生同士でのディスカッションと発表というように時間分けされていました。

普段耳慣れない遺跡や修復の話。きっと理解が難しい点もあるはず。そこで、バイヨンセンターのカンボジア人スタッフ3名、ソパリー・タウリー・ヨンちゃんをディスカッションの輪に加えることに。

こうしていつもとは違う場所で、大学生を相手に話をすることで、センタースタッフにとってもきっと刺激になるはず!かつかつの予算を押して、全員出張を決行しました。

 

20110524-0.JPG当日、会場はひな壇状の大きな会議室。聴講生は60名以上。スタッフたちもやや緊張の面持ち。

 

20110524-1.JPG最初の講義はバイヨンセンターの吉川が担当。

シェムリアップ出身者の数を聞くと、わずかに3人。そして遺跡への訪問回数や、遺跡の名称を聞いても、シェムリアップとは大きく異なっていることを感じます。名前は知っているけれど行ったことはないという人が圧倒的に多い・・・。

プノンペンは日本で言う首都東京。シェムリアップは京都。この2都市間の差はなかなかに大きい。

 

専門用語も容赦なく使ったにも関わらず、学生の皆さんは比較的よく理解してくれた様子。講義後にカンボジア人の先生からも「生徒は80%以上は理解できたはず」と太鼓判が。「写真や図面がたくさん紹介されたので、難しくても理解できる」と。がんばってプレゼン資料を用意して良かった!

 

そしてグループに分かれてディスカッションタイム。いよいよバイヨンセンタースタッフの出番です。3つのグループはそれぞれのスタッフのカラーによって全く違う雰囲気に。

ソパリーはまるで大学の先輩のように。

20110524-2.JPGタウリーは中学校や高校の先生のように。

20110524-3.JPG新人ヨンちゃんは、メコン大学のテリー先生に助けてもらいながら。

20110524-4.JPG『自分たちが遺跡の保存や修復に貢献するとしたら、どんなやり方があると思いますか?』という課題に挑みました。笑い声も飛び交いつつ、盛り上がったディスカッション。何やら思わぬ意見が出てきそうな予感が・・・。

 

20110524-5.JPG最後の発表では、「落書きをしないようにテレビで呼び掛ける」や「学生が遺跡修復のための基金を集める活動をする」など具体的なアクションのアイデアが出てきました。

いつもシェムリアップでは小学生や高校生を中心にやっている遺跡教育だけに、こうしたアイデアはちょっと新鮮。さすがプノンペン。さすが大学生。

 

今回初めてのプノンペン進出で、バイヨンセンターが感じたこと。

1つは、やはりプノンペンとシェムリアップでは根本的に環境が違う、ということ。良くも悪くも遺跡という存在が街の生活の基盤を支えているシェムリアップとは、遺跡へのむきあい方が違います。

 

もうひとつは、大学生はやはりおもしろいということ。今回の参加者は教育コースとビジネスコースの学生なので遺跡とは関係ありません。でも、やはり大学生だから考えられること、話し合えることがある。そして、大事なのは「考えて終わらない」機会を作り出すこと。考えてから行動するところまで、将来的に大学生と一緒にできると、これはとても面白くなるのでは?という期待感が。

 

DSC_0315.JPG   DSC_0290.JPG

 

今後、機会があればぜひ大学生とも遺跡修復現場訪問などをやりたいな!と、そしてどうやったら大学生たちを遺跡へと向かう具体的なアクションに繋げていくか、バイヨンセンターの新たな領域の可能性を感じるプノンペン出張でした。

P1040145.JPG  P1040146.JPG

 

*プノンペン大学の杉山先生、ご紹介いただいた木村文さん、本当にありがとうございました。

 

(ま)

 

 

 

 

4月末から5月初めのゴールデンウィーク期間中にコンポン・スヴァイの大プレア・カーン遺跡群での調査を行いました。

 

この古代都市は一辺4.5kmの環壕に囲繞された、外郭構造を有するクメールの都市の中では最大の規模を誇ります。これまで中心部や内部に散在する寺院の研究が行われることはありましたが、都市の全容を解明することを目的とした研究はほぼ皆無でした。

P1120799.JPG今回の調査は、都市の外郭構造の規模・大型貯水池バライの規模・各寺院をGPSをもって測量することで、この古代都市の配置計画の復原研究を目的としました。

外郭の環濠は幅が200m以上もあり、その内外は土塁によって形作られています。環濠の中に立つと、長大な二列の土塁に挟まれて距離感覚を失うほどです。また、貯水池を形成する土塁もまだ壮大な景観を呈しています。

 

P1120723.JPG都城内部は水田耕作地も多く、若干の住民もいますが、大半はジャングルで足を踏み入れることができない土地でした。調査は雨季に入りつつある時期であったため、すでに大地はぬかるんでおり、場所によっては調査地区への移動は困難を極めました。また、遺構も既に青々と茂った下草に覆われ始めており、それらの測量は手こずらされました。

 

P1120657.JPG P1120684.JPG P1130010.JPG雨が降り始めた時期ではあるものの、日差しはきつく、炎天下の中での作業が続きました。特にGPSの計測は上方が開けた所で実施しなくてはならないため、木陰に隠れることができず、過酷な作業となりました。

P1120943.JPG

(上の写真右下と左下で測量しているペアがいます)

 

今後測量データの解析と分析に入りますが、プレア・カーン遺跡群の他、アンコール遺跡、ベンメアレア遺跡等とも関連させた都市の平面配置計画の解明につながることが期待されるところです。(一)

バイヨン寺院の南側に新しく「バイヨンハット」なる施設の建設を進めています。

 

遺跡訪問客に対して、バイヨン寺院の修復工事や歴史について分かりやすく紹介することを目的とした施設で、事業事務所内に開設している「バイヨンインフォメーションセンター」の姉妹施設となります。

下の写真は今年2月に着工してからこれまでの経過です。現在瓦葺きまで完成しました。

P1100881.JPG P1110545.JPG P1110891.JPG P1130062.JPG建設工事と同時に、内部の展示計画の準備を進めています。

暑さの中でもあまり疲れず、しかし誰もが足と留めたくなるような興味深い展示にしたいと思っています。こうした展示をぜひ!という御意見があればぜひ連絡下さい。

オープンは今年8月ごろを予定しています。(一)

バイヨン南経蔵の修復工事はいよいよ大詰めに入ってきました。今年7月末の工事完了期日まで残すところあと3ヶ月。

一年で最も気温が高くなる酷暑の中、現在は基壇上部に載る壁体の再構築工事を進めています。

 

P1110550.JPG P1110914.JPGまた、新材の最終仕上げにも着手し、最終的な竣工イメージが少しずつできつつあります。(一)

P1110911.JPGP1130050.JPG

バイヨン寺院の南北外縁にて2月から4月にかけて日本国政府アンコール遺跡救済チームでは考古学的発掘調査を実施しました。

P1110138.JPGこれは昨年末から今年初めにかけて実施した外回廊南地区における発掘調査の継続研究にあたるもので、前調査で出土したトンネル遺構の端部検出と、1999年にJSAにて実施した寺院北のロングトレンチの土層断面の再確認を目的にした調査です。

P1100867.JPG排水を目的にしたラテライト造のトンネル遺構は、周回道路の内側に先端があることが確認されました。端部のレヴェルが現地表面よりかなり深くにあるため、この施設が生きていた時代の周囲の地盤造成状況にさらなる課題が残される結果となりました。

北側のトレンチでは外周壁遺構の下層の掘り込み地業についての確認が主な目的となりました。加えて、外回廊南側で確認されたトンネル遺構が、北側の対称地区にも存在するかどうか確認するための調査も実施しました。

P1110162.JPG

現在、これらの発掘トレンチの埋め戻し作業を進め、報告書の作成に向かっています(一)。

2月から3月にかけてコー・ケー遺跡群にて発掘調査を行いました。

 

過去3年間にわたる当遺跡群での調査は測量と踏査を中心としたものでしたが、その中でクメールの造形芸術としては特異なリンガ崇拝の極を達していることが推察されてきています。それを受けて、今回の調査ではリンガ祭壇の解明を目的として三カ所の大型台座を含む遺構で実施しました。

  DSC_0042.JPG

 

P_F02.jpg

(上図の台座は現在半分が土中に埋もれていますが、全高は4m近くに達します)

加えて、遺跡群内で王宮跡地と推測されている地点一カ所にて測量・表採調査・発掘調査を実施しました。王宮の跡地であることを示す痕跡を得ることはありませんでしたが、複雑な平面のラテライト基礎の配置とそれらの間には排水溝らしき遺構も認められ、今後の調査に期待がもたれる結果が得られました。

P1110058.JPG

調査はアプサラ機構との協力で実施しました。調査結果の詳細は現在作成の準備を進めているアンコール遺跡の地方都市建築研究を目的とした科学研究費の報告書内で報告の予定です。(一)

2011年3月にサンボー・プレイ・クック遺跡群が位置するコンポン・トム州の博物館が開館しました。本事業ではこれまで長年に渡り,博物館の設立にむけて協力をしてきましたが,念願の開館を迎えました。 P1120581.JPG P1120586.JPGサンボー・プレイ・クック遺跡群から出土した石彫作品の展示が中心となっています。破損していたリンテルや彫像等は,今回の展示に向けて接合作業等の修復を施しました。本事業では展示の解説パネルの作成の協力もしました。

13112010_1.JPGオープニングには文化芸術省大臣を始め,多くの出席者にお集まりいただき,盛況な開幕となりました。博物館はプノンペン-シェムリアップ間を結ぶ国道六号線に面しており,今後はサンボー・プレイ・クック遺跡群を訪れる前後にこの博物館を見学する観光客が増えることと期待されます。また,地元の中高の学生は課外授業のサイトとしてこの博物館を利用される予定です。

DSC_0075.JPG

DSC_0023.JPG

 

なお、サンボー・プレイ・クック遺跡群保全事業は文化財保護芸術研究財団と住友財団からの御支援のもと、カンボジア文化芸術省と協力で進められています。(一)

平成19年より22年にかけて科学研究費補助金 基盤研究(A)にて進められてきたアンコール遺跡における考古学的研究の成果報告書が刊行されました。

内容は以下の通りです。

 

「アンコール遺跡における出土貿易陶磁の様相解明」(研究代表者:山本信夫 早稲田大学理工学研究所准教授)

 

1. 調査の目的・体制・既往調査・各自調査の内容 (山本信夫)

2. 南経蔵と周辺部の調査 (山本信夫 他)

 2.1 南経蔵における発掘調査

 2.2 通廊Cとその下層遺構の発掘調査

3. 考古学と建築学における課題 (下田一太)

 3.1 中央孔より出土した鎮壇具の概要

 3.2 バイヨン寺院の内外回廊の建造過程をめぐる再考察

4. 中央塔の調査 (下田一太 山本信夫 他)

5. 寺院外郭南東部の調査 (コウ・ベット 山本信夫 他)

6. 発掘調査整理基準 - 遺構編 (山本信夫)

7. 鎮壇具の保存処理 (佐藤亜星)

8. 金属製品の文化財科学的な調査 (山口将史 平尾良光 他)

9. 石材と土壌に関する分析方法 (ロバート・マッカーシー)

 

なお、バイヨン寺院における考古学的研究は、引き続き本年度から4年間の研究補助金を得て継続することとなりました。今後はJASA第四フェーズとの密接な関係の中で、特にバイヨン寺院の東側正面における考古学的発掘調査を主眼として進めていきたいと考えています。(一)

2006年より2010年にかけて進められてきたバイヨン寺院浮き彫りの保存方法の研究の報告書が4月にまとめられました。

報告の内容は以下の通りです。

 

『アンコール遺跡・バイヨン寺院浮き彫りの保存方法の研究』

科学研究費基盤研究(A)(研究代表者:沢田正昭、国士舘大学21世紀アジア学部教授)

 

「はじめに」 沢田正昭

「アンコール遺跡の建築と美術 -バイヨンのバス・レリーフから考える」 中川武

「石材劣化機構の研究 バイヨン内回廊における含水率測定および表面吸水量測定-レリーフの保存に向けて」 内田悦生 他

「着生微生物に関する研究」 片山葉子

「三次元計測・スペクトル情報の研究」 池内克史

「バイヨン寺院浮き彫りの保存修復に関する実験的研究」 松井敏也 他

「保存修復材料のケースヒストリー」 井上才八

「古写真資料に見るアンコール遺跡群の保存履歴」 下田一太

「古写真から見たバイヨン寺院における修復の実態」 朴トンヒ 他

「バイヨン寺院内回廊屋根の保存における課題」 千葉麻由子

「おわりに」 沢田正昭

 

報告書をご希望の方は部数が限られていますが、ご連絡頂ければ送料を負担いただいた上でお送り致します。(一)

韓国のテレビ放送EBSにて、アンコール遺跡を紹介する番組が、4月18日から20日にかけて三夜連続各50分にて放映されました。
この番組は、企画段階よりJASA事業の専門家が協力し、番組の途中ではインタビューなどの場面も織り込まれています。
 
1000人以上のエキストラによる戦闘場面や建設工事の場面はアンコール遺跡を描いた過去のドキュメンタリーの中では最大規模になり、また随所に美しい三次元映像も盛り込まれています。
 
担当者は英語番組、日本語番組など、各国のテレビ局に今後売り込んでいきたいとのこと。日本でも放映されるようになることを楽しみにしています。
 
以下のサイトで、この番組のダイジェストが見られます。
http://home.ebs.co.kr/clink.jsp?client_id=angkor&handle=26

長年アンコール遺跡の研究に取り組んできた早稲田大学教授 内田悦生先生が研究のエッセンスをまとめた書籍を刊行しました。

 

「石が語るアンコール遺跡-岩石学から見た世界遺産」 内田悦生(著)下田一太(コラム)

http://www.amazon.co.jp/%E7%9F%B3%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB%E9%81%BA%E8%B7%A1-%E2%80%95%E5%B2%A9%E7%9F%B3%E5%AD%A6%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%BF%E3%81%9F%E4%B8%96%E7%95%8C%E9%81%BA%E7%94%A3-%E6%97%A9%E7%A8%B2%E7%94%B0%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E5%AD%A6%E8%A1%93%E5%8F%A2%E6%9B%B8-%E5%86%85%E7%94%B0-%E6%82%A6%E7%94%9F/dp/4657117041

 

アンコール遺跡を形作る石材を対象に研究を行い、そこから建物の造り方や建設年代、そして劣化のメカニズムなど、解明された様々な新事実が集大成されています。

前半では研究の手法を紹介し、後半ではアンコール遺跡の主要な寺院を個別に解説する構成です。

アンコール遺跡の見学をこの本片手に回ってみるのも、マニアックな楽しみとなるでしょう。(一)